以前もご紹介したトライポフォビア(つぶつぶ恐怖症・集合体恐怖症)、続編を書くにあたって知った定義が自分の肌感覚と違ってちょっと意外だったので、方向性ごとに分類してみました。
写真だけ確認したい方は7章へどうぞ。
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1:蓮コラ あるいは トライポフォビア
2:つぶつぶ(集合体恐怖症)
3:グレーチング(パンチ穴恐怖症)
4:ぞわぞわしそうなもの
5:傷病に通じそうな例
6:いったん まとめ
7:閲覧ご注意。
1:蓮コラ あるいは トライポフォビア
トライポフォビアは2005年頃に定義された神経症で「ツブツブ恐怖症」や「繰り返しパターン恐怖症」などとも呼ばれる一連の症状です。一部にトライプロフォビアと誤用されてる向きもありますが同じもの。
火付け役となったのは蓮の種を使った「蓮コラ」と呼ばれる画像ですが その前にまずは本物の蓮の実をご紹介しておきます。レンコンを割ったような不思議な形状ですけど、断面ではなく最初からこういう形。
じょうろの先端のことを「はすくち」と言うのも ここから来ています。
で、これを女性の皮膚に合成した通称「蓮コラ」画像が作られて、本能を刺激するようなおぞましさから一気に広まったのは皆さんご存じの通りです。
何故その画像を気持ち悪く感じるのかという考察も各所でなされて、「感染症や皮膚を食い破られる感覚を連想させるから」という見解に落ちつきました。
実際、自分もそれは妥当な線だろうだと思ってたんですが、改めて調べるとWikipediaでは「パンチ穴」や「繰り返しパターン」への恐怖症と定義されています。
【追記 : 2013/09/07】
トライポフォビアに関して発表された最新の論文によると
「トライポフォビアは人類の進化の過程で得られた有毒な動物を見ている という記憶を呼び起こしていることを示唆している」…とありますね。
アブスト読むとこの感情に働く特徴的な生物としてヒョウモンダコを挙げてるんですが、論文のタイトル自体は「何故人は穴を怖がるか」なので、微妙に自己矛盾してるような気がするのですが…おっと誰か来たようだ。
Understanding trypophobia: Why some people fear holes
Geoff Cole,Arnold Wilkins
しかしこの蓮の実を見る限り、穴は空いてるものの規則的パターンではないし、感染症への警戒感と機械的なパンチ穴が同じ症例に分類されるのは少々不自然な気もします。
以下、検証を兼ねて自然界でトライポフォビアの対象と言われがちなものを要素の薄い順に並べてみました。発端となった蓮コラは一番最後にご紹介しています。
2:つぶつぶ(集合体恐怖症)
トライポフォビアの代表みたいに言われるツブツブ、実はそれほど悪寒をを生まない気がしてます。
ツブツブ食材
意外と好かれ嫌われの激しいトマト。ミニトマトと大玉では嫌われポイントも随分違うのではないでしょうか。ミニトマトは丸ごと、大玉だと中のゼリー部分が嫌われがちなので、この写真自体に刺激は少なそうです。
ただし、ツブツブとは別の意味でSFっぽい茎が不穏なので載せてみました。
【ぶどう】形の揃った粒々。
【クランベリー】赤だとまた印象が違うでしょうか
水泡
【泡】
キノコ
【きのこ】種類によって印象が変わりそう。
シダ類
【シダ】胞子嚢を嫌う人は多いですね。
錆
【さびた鉄】これはツブツブ嫌悪というより破傷風への警戒心が先に立ちます。
3:グレーチング(パンチ穴恐怖症)
以前「規則的な模様に対して無意識に立体視してしまう体質の人がこの手の柄を嫌うのではないか」という仮説を立てています。
パンチングボードやハニカムタイル
【パンチ穴の空いた建材】立体視するには柄が細かすぎる写真かも。虫の複眼のようで嫌だって意見も聞いた事があります。
【ハニカムタイル】フラットな感じのテクスチャ。
【蜂の巣】柄が嫌か、幼虫が嫌か、親蜂が嫌かでそれぞれ対処が変わるでしょう。
【グレーチング】アングル次第では高所恐怖症的な文脈も発生しそうです。
その他の規則的な構造物
【鉛筆】束ねた鉛筆に言及してるパターンも。やや先端恐怖症に近い要素です。
【集合住宅】これもトライポフォビアの対象だと言われています。
【集合住宅】パターンそのものへの恐怖より、社会的な不安感があるのかも。
【 備考 】
ただしThomas,Gregory(October,2012)論文によれば後天的に得た社会的恐怖感はトライポフォビアに含めないと記されてます。
4:ぞわぞわしそうなもの
あとこちらは少し例外的ですが、トライポフォビアと近い悪寒を呼ぶものいろいろ。
【マスクメロン】ツブツブじゃないんですが、傷跡を連想する例。
【タコの吸盤】実際に吸いつかれたことのある人と ない人で印象が変わりそうな例。
【memo】
これ以降、モザイク画像はGoogle画像検索結果にリンクしています。(鮮明な単独写真はページ下部の方にまとめました。)
【タンザニア・ナトロン湖】
真っ赤なのは塩湖のため。細胞のようだと評される事もあります。
【ジャボチカバ】馴染みのない方も多いでしょうか、近年導入されつつある南国果物です。幹に直接実を付けるので、大木で結実する様子を嫌う人はかなり多いです。
【ドングリキツツキ】
木肌におびただしい穴を開けてドングリ埋め込む北米のキツツキ。
5:傷病に通じそうな例
【フジツボ】
【疱瘡】
カエルの卵
ぬめぬめした質感も含めて敬遠されがち。
【コモリガエル / ピパピパ】
卵は親蛙の背中に埋め込まれます。孵化するとき親の皮膚を突き破って出てくるため、寄生虫の類型として嫌われがち。
【Hydnellum peckii】
別名、悪魔の歯と呼ばれるキノコ。血を浮かせたような独特のフォルムです。
6:いったんまとめ
一口にトライポフォビアと総称されますが実はかなり範囲の広い概念であることが判ります。
一つの軸は、パンチングボードに代表されるような、めまいを生む群。※1
大量かつサイズが揃ってることがポイントでしょうか。
もう一つは、蓮コラに代表されるような、疫学的に身の危険を感じるような群。
自身のトライポフォビア耐性が低いと思っている人でも反応の強いジャンルとそうでもないところはかなり分かれてくると思います。
苦手部分がどこに集中してるか一つ一つ検証していくと、ある人にとって どうしてもダメなのは、ほんの一部の要素なのかも知れません。
【追記 2013/06/05】
※1 言葉をちゃんと定義してなかったので補足。
ここで言う「めまい」は、「医学的めまい」よりも広義の表現でロジェ・カイヨワが「遊びと人間」で定義した「遊びの4要素」に近いものです。
この時の「めまい」は絶叫系遊具を筆頭にスイカ割りのようなものも含まれていて、「自分の体や感情を把握しきれてない状態」と言い換えることが出来ます。
つまり トライポフォビアを生む心理状態にめまいが含まれているとすると、気持ちが悪いと言いつつ見てしまう「怖いもの見たさ」という心理には娯楽要素があるのではないかと思うのです。
【遊びの4要素】
用語 | 意味 | 凡例 |
---|---|---|
アゴン | (競争) | スポーツなど |
アレア | (偶然) | ギャンブルなど |
ミミクリ | (模倣) | ごっこ遊びなど |
イリンクス | (めまい) | ジェットコースターなど |
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【追記 : 20109/07】
以下、個別の鮮明な写真を追加しました。
【泡】
via Matt Bilton
以前は泡が対象になってる意味が良く判らなかったんですが、こうして見ると王蟲の複眼的ですね。
【蜂の巣】
via Dick’s Pics
【モウセンゴケ】
via Philippe Garcelon
【ジギタリスのブロッチ】
via Jacobus Swart
【ナトロン湖】
via paulconormckenzie
【ジャボチカバ】
via Rodrigo
【ジャボチカバ開化】
via Pedro Bezerra
【ドングリキツツキ】
via Kevin Price
【フジツボ】
via robin5543
【カエルの卵】
via constaa
【コモリガエル】
via syntaxfree
【Hydnellum peckii】
via Stefano Vianello
【サンゴ】
Mikkel Rønne
【ウニ】
via Jeffrey Cooper
【ヒョウモンダコ】
via Michael Stallings
この期に及んで閲覧ご注意下さい。
各画像は私が撮影した写真とライセンスを受けて使わせて頂いてる写真と引用を許された写真が混在しています。
【関連記事】
以前トライポフォビアについて調べ始めたとき、定義が曖昧だなと感じて書いたものです。
俗に「発芽イチゴ」と呼ばれる写真、トライポフォビア関連で語られる事が多いんですが いろいろ間違ってるので解説。
コメントをどうぞ(´ω`*)