本稿は「雪を火であぶっても溶けないのは化学物質のせいだ」なる陰謀論に腹を立てて書いたため、だいぶ頭に血が上った仕上がりになっております。【注:2018-11-06】
関東で記録的な大雪ですね。
そしたら「ライターで雪を炙ってるのに解けない!」「きっと人工的な化学物質に違いない!」…とかいう話を見かけましてですね。もう、いい歳した大人なんだからほんと勘弁して欲しい。
とりあえず、その流れで問題です!
問1:100度の湯と0度の氷を同量混ぜたら何度?
100度の熱湯200gと0度の氷200g混ぜたら何度になるでしょう~?って選択肢10度刻みくらいで無作為に聞いたら回答の中央値は何度になるのかな。
2014年2月15日
【2016/01/27:追記】よく考えたらTwitterでアンケート取れるのでやってみた。
100度の熱湯に、0度の氷を同重量混ぜたら何度くらいになるでしょうアンケート
— おち (@02320_ochi) 2016, 1月 26
ほぅ…。(・∀・)
厳密には「同量」の定義づけや容器による吸熱が発生するのですが、どんなにざる実験でも「50度よりもずっと冷える」のは確かです。
問0:100度のお湯と0度の水を混ぜたらどうなる?
氷とお湯を混ぜてみる前に、0度の H2O が氷ではなく水の場合を考えてみます。
0度の水を用意するには
0度の水を用意するのはちょっと大変そうですが、冷凍庫で水を冷やして薄氷が張ったところで取り出します。これを攪拌して温度を均一にすれば「ほぼ0度」と言って良いでしょう。このとき、残った薄氷は取り除いて下さい。
そして、この水と熱湯を混ぜあわせると単純に真ん中の50度を指します。
常温の水とポットのお湯を同量混ぜてみた
【本章追記:2016/01/26】ここで、手近にあった水とお湯を混ぜてみます。0度からの相対熱量としてcal(カロリー)を挟みました。
水A | 水B | 混合水 | |
---|---|---|---|
重量 | 100g | 100g | 200g |
熱量 | 2300cal | 6200cal | 8500cal |
温度 | 23度(実測) | 62度(実測) | 42.5度(予想) |
割と綺麗に出てますけど、実は容器に移し替えたり温度を測る手順そのものでも熱が逃げます。ここでは熱伝導率の低い容器を使ったり下に断熱シート敷いたりしてるので、再現実験するときの参考になさって下さい。
潜熱(せんねつ)と顕熱(けんねつ)
潜熱(せんねつ)・顕熱(けんねつ)という概念をご存じでしょうか。聞き慣れない言葉かも知れませんが、ここで言う潜熱は氷が水へ状態を変えるとき余分に必要とされるエネルギーのことです。融解熱と言うこともあります。
気化熱は潜熱の一種
ほぼ同じ概念の言葉に「水→気体の状態変化」で必要とされる気化熱というのがあります。一般的には気化熱の方が馴染み深いかも知れません。
たとえば水が100度で気体になるからといって火に掛けた湯が沸騰するやいなや一瞬で蒸発したりはしませんよね。100度の湯は、相応の気化熱を溜め込んでからじゃないと100度の水蒸気に変身できません。
気体として自由に動きまわるためには相応のエネルギーが必要です。逆に水蒸気が気体でいるのをやめて結露するときは、溜め込んでたエネルギーを一気に放出します。このとき解き放たれた熱が顕熱です。
氷が溶けるときに必要な融解熱は333ジュール/g
よく教科書とかに「氷の融解熱は1gあたり333ジュール」って書いてあるんですけど、慣れてないとジュール持ち出されても良く判らないのでカロリーで考えます。もともと水の熱計算のために考えられた単位なので、こういうときはカロリーが便利。(・∀・)
とりあえず1gの水を1度上昇させるのに必要なエネルギーが約4.2ジュールですから、割ると79.3calですね。この場合、周囲の熱が奪われるので収支としてはマイナスです。少々おかしな表現かも知れないけど「0度の氷は-80度の水とエネルギー的に等価である」と言えるでしょう。
要するに「100度のお湯と0度の氷を混ぜて氷が全部溶けた状態」は「20度の水と0度の水を混ぜた状態」とほぼ等価でした。これが、氷水がひんやりしてる理由です。
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融雪剤なんかもこの仕組みに関係あります。 |
出来たて氷と煮えたぎる湯を同量混ぜてみた
【本章追記:2016/01/26】同様に、0度の氷と煮えたぎるお湯を混ぜてみます。
氷 | 熱湯 | 混合水 | |
---|---|---|---|
重量 | 100g | 100g | 200g |
熱量 | -8000cal | 10000cal | 2000cal |
温度 | 0度(多分) | 100度(実測) | 10度(予想) |
実は、ぴったり10度にならないのも理由があります。余裕があったら考えてみると面白いですよ。
【追記:2018-11-06】「実際はもっと下がりそうだけど」って声が多いのですが、容器が結露すると結果にだいぶ影響します。水蒸気の凝固熱が 540cal/g くらい。
追加で募集してたアンケートの結果発表も載せときます。
おわりに:アイスコーヒーの氷はなぜ融けない?
長々書いて何が言いたいかというとですね。アイスキューブをぎゅうぎゅうに詰めたグラスに熱いコーヒーを注いだら氷が残るわけですよ。
このとき氷とコーヒーは必ずしも等量でないし抽出で温度も下がってますけど、単純平均でないことは体感的に誰しも知ってるはずです。ライターで氷を炙っても融けない!なんて良くあるサイエンスマジックでしょ。
なんで改まって聞くと急にみんな頭をひねるの?日常生活って壮大な実験場ですよ。採点されたりしないんだから楽しんだ方が絶対お得だと思うの!(`・ω・´)
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おまけ:雪が青く見える理由
まともに雪を見たことのない子ども達が全力ではしゃいでいるのは実に微笑ましいのですが、まともに雪を見たこともない大人が「雪が青く見えるのはチェレンコフ光です!(ドヤァ)」とか言ってるの超ウケる。
あのね、それレイリー散乱です。
レイリー散乱? だとしたら雪の深い所は赤く見えるはずだよね?見えねーよ。 雪はミー散乱だろ。大気中の塵と違ってサイズがでかいから全部散乱させる。やり直し
id: xevra さんのコメント
【2016/01/27:追記】なるほどと思いましたが、青く見える部分はミー散乱じゃないだろうしなぁ…と思ったのでやり直してきました!
水分子の極性によって揺らぎが発生して、その振動が赤色波長をちょっとだけ吸収するんですね。
愛媛総合科学博物館
すいません、今日のうっかり案件でした…。申し訳ございません。:;(∩´﹏`∩);:
大気中では数Km四方のスケールじゃないと青空として観測出来ないものが、雪の場合は粒度の違いから数10cm四方のオーダーで顕在化してるんです。ここ、自然と科学を体感できる感動ポイントだと思うの。
「人工雪だ!」とか騒ぐ前に、街中に降らせたらいくらかかるのか落ちついて考えると良いですよ。(´・_・`)
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実験上の注意とかいろいろ
ご家庭実験なので適当で構わないと思うんですが、一応実験上の諸注意いろいろ書いておきます。
体積ベースと重量ベースで多少結果が変わります
この手の問題は同体積(cm3、リットル等)で問われることが多いんですけど、0度の水と100度の湯はそれぞれ密度が違いますから体積ベースで混ぜると中間温度よりやや低い方に振れます。(0度と4度の間では逆転する可能性があります。)
特に、氷の場合は溶けると体積が1割減るので今回は重量ベースとしました。
同重量の水と氷を用意するには
家庭で同じ重量の水と氷を用意する場合、製氷皿で氷を作ってから同じ製氷皿で水を計量するとほぼ同重量です。お湯を沸かすときは蒸発分としてスプーン一杯分くらいの水を足してから鍋にフタをして加温して下さい。
氷の温度について
なお、冷凍室から取り出したばかりの作り置きの氷は冷凍室の温度と同じです。たぶん-15度くらい。
厳密に0度の氷を作ろうと思ったら実は結構難しくて、冷凍庫で冷やしながら「完全に凍りきる前の下部に水が残ってる状態」で取り出すと比較的高温の氷が手に入ります。このとき、凍りきらなかった水は捨てて下さい。そのぶん、合わせる水の量も調整します。
【 更新履歴等 】
2014-02-18 初稿発表
2016-01-26 図表足しました
2016-01-27 アンケート足しました
2018-11-06 アンケート結果発表
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